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2005年12月14日

Lisman のトーク

今日はうちのセンターのセミナーで、John Lisman のトーク。前半は、LTPにおけるシナプスメカニズムの話で、後半は記憶におけるドーパミン系の役割の話。後半の話は、半年前ぐらいに出てた Neuron の review 論文(Anthony Grace と共著)に沿った内容。ドーパミン(以下、DA)というと報酬系の話が多いが、この論文ではドーパミン系の novelty-dependent activity に焦点を当てている。

ラットを新規環境に入れる、などの刺激により、VTAのドーパミンニューロンが活性化され、これにより海馬へのドーパミン放出量が増加し、そのドーパミンが海馬のシナプス増強に影響を与えるらしい。これより、海馬 →・・・→ VTA → 海馬 というループ(論文のFig 5)が、新規情報の長期記憶形成に重要なのではないか、という仮説が考えられる、という話。

ストーリーを簡単にまとめると、こんな感じ;

(0) Anatomy。
ドーパミン系の主要な投射元は、中脳黒質(Substantial Nigra)と中脳腹側被蓋野(VTA)。主な投射先は、大脳基底核の側座核(accumbens)、線条体、および Prefrontal cortex など。海馬にも投射がある。

(1) novelty-dependent DA release in 側座核 (Legault & Wise 2001 EJN)
ラットを新規環境に入れると、側座核での DA release の増加(microdialysis で測定)。この DA release は、海馬 subiculum への TTX 適用で抑制される。つまり、海馬 dependent な現象。

(2) novelty-dependent DA release in 海馬(Ihalainen et al 1999 Neurosci lett)
ラットを新規環境に入れると、海馬での DA release の増加(microdialysis、HPLC で測定)。

(3) 海馬 → 側座核 の glu 投射が、 VTA の DA neuron の活動を活性化させる。(Grace AA 2001 JNS)

つまり、

 海馬 subiculum →glu 側座核 →・・→ VTA →DA 海馬
 海馬 subiculum →glu 側座核 →・・→ VTA →DA 側座核

の経路で、novelty-dependent な、海馬(&側座核)でのドーパミン放出がある。

で、このドーパミンが何をするかというと;

(4) 海馬スライス系において、Late-phase LTP は、D1 レセプター依存である。

(5) Novelty-dependent enhancement of LTP (Rowan MJ 2003 NN)
テタヌス刺激を、ラットが新規環境下にいるときに与えると、CA1 での LTP は増大する
(free-moving rat での field 記録実験)。これは、D1/D5 レセプター依存。

(6) Late-phase LTP において、DA は local protein synthesis を増強する働きを持つ(海馬分散培養系)。(Erin Schuman 2005 Neuron)

というわけで、このドーパミンは、シナプス可塑性の late-phase に効いてくる、という流れ。

ただ、このストーリー自体は、Lisman 色よりも、むしろ Grace 色のほうが強い感じがするかな。最近 Grace が、DA系と絡めた PFC-海馬 interaction の研究を力を入れてやっているのはこのストーリーとの絡みを考えているのでしょうね。

投稿者 sfujisawa : 2005年12月14日 22:54

コメント

相変わらずナイスなまとめ、助かっております。「VTA/SNcのdopamine系と可塑性」というテーマは重要だな、と思います。ちょうどいまわたしのところで採りあげているようなfree-choice taskでは、最近の数トライアル分でどのくらい報酬を得られたか、といった試行よりも長いレンジでの報酬量の推定をしているわけですが、この機構に必ずや関わっているはず、というのがその理由の一つです。
だれかやってるんですかね。スライスではstriatum内とかでもいろいろ可塑性があるような話を昔(薬作にいたころ)読んだ憶えはあるのですが。

投稿者 pooneil : 2005年12月16日 03:28

コメント、ありがとうございます!

Lisman が主張していたのは、可塑性が生じた後の、長期間の安定化に DA が必要というはなしで、ストーリーとしては、「報酬や Novelty 刺激 dependent に放出された DA は、その部位でLTPを生じたシナプスの安定化にも効く」、つまり「報酬や Novelty 刺激を受けたときのシナプス変化は安定化しやすい → 長期の Consolidation が生じやすい」という仮説。(論拠としては、Schuman 2005 など)。

「数試行よりも長いレンジでの報酬量の推定」となると、上で述べた長期の consolidation というよりは、early-phase の LTP (数分~十数分のタイムスパン)のようなものが思い浮かんできます。もしかしたら、striatum と海馬では、可塑性に対する DA の効き方が違うのかもしれないですね(発現している受容体の違いなどによって)。なんかちょっと文献を調べたくなってきました。

投稿者 しげ : 2005年12月17日 00:31

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