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2005年10月22日

Local cue と Distal cue

というわけで、place cell の place field 形成における、Local cue と Distal cue の役割の違いについて、最近の論文をベースに簡単にまとめてみます。

(以下の文章では、「実験部屋」は実験を行う部屋全体の空間(つまり distal cue)、「実験箱」は実験部屋の中に置いてあり、ラットがその中で課題を行う比較的狭い空間(つまり local cue)をさします。)

(1) Knierim 2004 Nature の実験:

ある実験部屋(distal cue)とある実験箱(local cue)の組み合わせで、ラットに場所を学習させる。ここで、実験箱を実験部屋に対して反時計回りに何度か回転させる。このとき、place field が反時計回りに回転していれば、その place cell は local cue をコードしており、、place field が時計回りに回転していれば、その place cell は distal cue をコードしているのがわかる、という実験ロジック。Place field が Local cue と Distal cue のどちらに引きずられるか、ということですね。

実験結果は、
CA1では、Local 14.3% Distal 12.9%
CA3では、Local 51.5% Distal 7.7%
つまり、CA3では、かなりの place cell が local cue をコードしていることが分かる。CA1では、Local でも Distal でもない(つまり、place fieldがなくなったり、ぼやけたり、新しくできたりした) place cellがけっこう多い。

(2) Moser 2004 Science の実験:

Moser 2004 science の論文でも、Knierimの実験に近い結果が得られている。
実験箱Aから実験箱Bの変化に対して(実験部屋は同じ)、CA3は place field が overlap することが少ないが、CA1は place field が overlap することが多い、という結果。解釈としては、① CA1が distal cue で、CA3が local cue、あるいは、② CA3のほうがCA1よりも、 pattern separation 能力が高い。

(3) Moser 2005 Science の実験:

このエントリー参考。実験部屋(Distal cue)は同じで、実験箱(Local cue)を変えた場合、一見、place cellのコードする領域が変わったように見えるが、実は発火数が変わっているだけで、コードしている領域は同じだ、というないよう。(CA1&CA3野)。つまり、Local cueは発火数、すなわち"Gain"によってコードしている、という解釈。(昨日のトークで、Moserは、場所の変化に対して発火数のみ変わるものを"Rate remapping"、Place field と発火数の両方が変わるものを"Grobal remapping"と名付けて、これらの違いが生じる回路的なメカニズムについていま研究しているみたいなことを言ってました。)

(4) O'Keefe 2005 Science の実験:

O'Keefeの実験では、丸い実験箱を徐々に四角い実験箱に変えていったら、place cell の place field は、ある時点で、不連続に、丸い空間の place field から四角い空間の place field へ遷移するという結果が得られている。つまり、丸と四角の中間の空間であっても、丸い空間か四角い空間のどちらかに認識されているということですね。つまり、アトラクターが存在する、というわけですね。

ここで、実験箱を Local cue と考えると、実験は同じ実験部屋でやっているので、CA1は完全にLocal cueをコードしていることになる。

(ギューリーはことあるごとにこの論文を絶賛していますね。丸い空間と四角い空間で完璧にplace fieldが分離されてるのがすごい、と。ところで、このようにplace fieldが完全に分離されるにはどれくらい時間がかかるのでしょう?この論文のMethodをみてみると、だいたい1週間と書かれています。でも実際は、Pre-trainingをもう少し長い時間やっているかもしれないですね。O'Keefe Nature2002では、円形箱と四角型箱で完全に place field が分離するのに20日近くかかっていますからね。Moser実験とのデータの違いも、この辺のPre-training時間にあったりするのかもしれないです。)

(5) Moser 2005 Neuron の実験:

これはおととい書いたやつですね。O'Keefeと同じく実験箱を円形→四角形に変形させていったら、O'Keefeのように一気にplace fieldが遷移する細胞と、そうではなく徐々にplace fieldが変形していく細胞の両方が存在する、という結果。

昨日のトークでも話してたのですが、徐々に変形する細胞がいるからと言って、アトラクターの存在を否定するわけではない、と主張していました。というのは、このような細胞も、円形から四角形に変形していくときと、四角形から円形に変形していくときでは、place fieldの遷移の仕方が違うというデータが得られているので(Fig4(CA3)&Fig6(CA1))、つまり、「ヒステリシス(Hysteresis)」が存在する、というわけです。(ヒステリシスが存在するということは安定点の存在を示唆しますよね。)(ヒステリシスは電磁気学や固体物理学などでよく出てきますが、入力に対する応答がその履歴に依存しているということです。直感的な図(ハーマン・ハーケンの本より)


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さて、Local cue と Distal cue が CA1細胞の place field に与える影響をまとめると、

Moser-McNaughtonの考え方では、CA1では、
 Local cue は、place cell の、place field は変えずに発火数(gain)を変える。
 Distal cue は、place cell の、place field そのものを変える。

O'Keefeの考え方では、CA1では、
 Local、Distal に関わらず、place field が変化する。

で、Contradictoryである。(というのがギューリーの解釈)

もっとも、O'Keefeの実験で使っている実験箱は、かなり大きい(一辺 102cm、高さ77cm)。(ちなみにMoserのは、一辺 80cm、高さ50cm)。もしラットの視界に入ってくるものが実験箱の壁面だけで実験部屋が見えないなら、実験箱を local cue と考えるのはおかしいかもしれない。

そうしてみると、Local cue / Distal cue という単純な分類ではダメなのかもしれませんね。(ギューリーは、Local cue、Distal cue と言う言葉を好んで使うんですけど。)Distal cue はむしろ「Context」と言い換えた方がいいかもしれないですね。Moserの実験ではラットは実験部屋をContextとして認識してて、O'Keefeの実験では実験箱をContextとして認識しているのかもしれない。

あんまりうまくまとまりませんでしたね。またそのうち蒸し返してみます。

投稿者 sfujisawa : 2005年10月22日 20:49

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